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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(ク)200号 決定

東京都豊島区池袋五丁目二八〇番地

抗告人

岩下文一郎

右代理人弁護士

山中静次

右抗告人は、東京高等裁判所昭和三二年(ツテ)第六号家屋収去土地明渡等請求事件につき同裁判所が昭和三二年八月一六日なした上告却下の決定に対し、特別抗告の申立をしたので、当裁判所は、裁判官全員の一致で、次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

論旨は憲法違反をいうが、憲法は三二条において、何人も裁判所において裁判を受ける権利あることを規定しているに止まり、いかなる裁判所において裁判を受くべきかの裁判所の組織、権限、審級等については、すべて法律において諸般の事情を考慮して決定すべき立法政策の問題であつて、憲法には八一条を除くのほか、特にこれを制限する規定の存しないことについてはすでに当裁判所大法廷の判示したところである(昭和二三年(れ)一八八号同年七月七日大法廷判決、刑集二巻八号八〇一頁、昭和二三年(れ)二八一号同二五年二月一日大法廷判決、刑集四巻二号八八頁)。されば上告理由書提出期間内に上告理由書を提出しなかつた場合に原裁判所は決定をもつて上告を却下することを要するものとした民訴法の規定について違憲の問題を生じないことは右判決の趣旨に徴し明らかであり、この点の論旨は採用するを得ない。

上告理由書提出の有無の判断を論難する論旨は、憲法適否に関するものでなく、民訴四一九条ノ二の規定する適法な抗告理由にあたらないばかりでなく、元来上告理由はその上告理由書自体に記載すべきであつて他の事件についての上告理由書を援用するようなことは許されないから(昭和二六年六月二九日第二小法廷判決、民集五巻七号三九六頁)、この点の論旨は採用の限りでない。

よつて民訴九五条、八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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